年収よりも大切な、経験と人脈の話

ある若手社員と1on1していたときのこと。彼はおもむろに給与交渉を仕掛けてきた。結婚を考えており、今の収入では満足のいく生活ができないという。さらに、実は他社からオファーがあり、転職も考えているという。

 

自分にもそういう時代があったので気持ちはよくわかるが、バッサリとその話を切り捨てた。

「給料上げたければ成果をもってこい。君が辞表を出しても止めないよ」

彼は1ヶ月後に同業他社に転職した。年収は10%ほど上がったらしい。

 

結論からいうと、こういう転職はあまりオススメしない。目の前の1万円ではなく1ヶ月後の1万1千円を求めるのが本当に賢い人間だからだ。

 

給料目当てで転職しない

私は今までに何回か転職しているが、給料目的で転職したことは一度もない。投資銀行に入社したときですら、給料目当てではない(最初のベースはだいたい700万円。数カ月後の査定ですぐにグッと引き上げられたが)。

私の転職は、年収がダウンすることが多かった。しかし、振り返ればすべてが高いリターンをもたらした。転職先がIPOしたこともあるし、臨時ボーナスとして10万ドルの小切手をもらったこともある。

極端な例かもしれないが、メジャーリーガーの大谷翔平も年収を下げるタイプの男だ。日ハムに入ったときは年俸1,500万円。その後 2億を超えるが、メジャーに移籍。メジャーでは最低年俸でサインした。彼はお金に興味がないのかもしれないが、私からすると「未来の価値」にベットしているように見える。いい経験を積み、未来の価値を高められれば目の前の報酬なんてどうでもいい。

 

私の場合は結果的に、今は経営者の端くれとしていくつかの企業で役員をやらせてもらっている。いろんな経験を積んでいてよかった。

そんなのは生存者バイアスだ!という指摘があるかもしれない。でも、未来ある若者が500万とか700万といった小さな金額のために転職を判断するのは、筋が悪いとしか思えないのだ。

 

経験という報酬

仕事の報酬は何もお金ばかりではない。経験こそが転職で得られる一番の報酬だろう。外資系のある小さな会社で働いていたとき、私は1年の半分くらいを海外で過ごした。ゼロコストで留学したようなものだ。

たまたまロンドンオフィスのCFOが私と同じ金融ファーム出身だったということもあり、彼とは特別仲がよく、今でも頻繁に連絡をとっている。彼はロンドンのスタートアップ界隈でちょっとした有名人になっているらしく、日本に関係するプロジェクトがあると真っ先に私に相談してくる。言葉を選ばずに言うなら、これは私にとって金脈のようなものだ。

年収3,000万円以上、SOあり、フルリモート(オフィスが必要なら探してくれ)

こんな案件が山ほどある。良質な経験を積めたこと、人脈を作れたことには感謝しかない。

転職するときには、転職先にどんなオポチュニティがあるのかを考慮した方がいい。高年収で日本オフィスに閉じこもっているくらいなら年収500万円でもいいから海外に行くべきだ。

 

プロフェッショナル・ジェネラリスト

みんな若いうちに稼ぎたいし、将来リストラされるのも嫌だという矛盾を抱えている。

しかし結局のところ、稼ぐにはある程度の時間と努力が必要だ。大切なのはどのように時間を使うか、どのように努力するかである。

一言いっておきたいのだが、スペシャリストになるのは非常に危険だ。若い人ほど資格にこだわったり、ホットな職種に飛びつきやすい。例えばデータサイエンストになりたいような人だ。確かにAIとか機械学習は今後重要になるし、優秀な人材はGoogleなどに高待遇で転職できるだろう。でもそんな浅はかな望みは絶対に叶わない。本物のデータサイエンティストたちに敵わない。

でもジェネラリストになるのは簡単だし、そこそこの努力でプロのジェネラリストになれる。営業と経理と広報ができる人なんてなかなかいないが、やろうとすれば誰でもできる。手を上げればいいだけだ。

「管理職」という仕事は典型的だ。できる人がなかなかいないけど、別に特殊な仕事ではない。経験が物を言う仕事だ。急にデキる新卒が現れることもない。

 

人脈を作る

JVのトップを外部から呼ぼう、日本支社のGMを誰にしようか、ワーキンググループの委員に誰を招くか、社外取締役はどうしよう ― そうした人材は驚くほど枯渇している。そう、プロの管理職みたいな人材が足りないのだ。

リッチになりたいとき、なにも起業家になる必要はない。個人でもバイネームで仕事が来るようになれば、ある程度の収入は確保できるのだ。プロの管理職はしょっちゅう霞が関に呼び出され、有名企業の幹部から接待を受けている。

こうした機会にありつくためには、良い経験を積んで自分の顔を売るしかない。人材は枯渇しているので、すぐに次の仕事が紹介される。

20代の若者は10%アップのために転職するのではなく、ほかでは得られない経験をもらいにいこう。エキサイティングな経験を積むうちに人脈が広がり、あなたを指名する声がかかるようになるだろう。

 

最後に

河川の下流は濁っていて美味しいエサがない。ならば上流にいこう。上流は水が綺麗でエサも美味しい。美しい魚たちが泳いでいる。

あなたの転職は、上流に向かって泳いでいるだろうか?ひょっとして隅田川から江戸川に移動しただけなのではないだろうか?

80歳まで働く時代だ、今からでも遅くない。正しい方向に進んでみよう。

 

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