アンソニー・ノト、Twitter赤字上場からCFO就任後の辣腕すぎる仕事ぶり

Twitterの驚くべきIPO成功劇

Twitter社は当時4億ドルの赤字を抱えており、IPOを目指すのは控え目にいってもクレイジーだった。なにせ、超優良企業のFacebookさえ盛大にコケたばかりなのだから。

Facebook株は初値まで回復するのに1年以上費やした。

実際、当時IPOが噂されていたEvernotePinterestDropboxなどネットベンチャーは軒並みはIPOを見送った。

 

逆境の中でIPO

さて、そんな時期にTwitterなどというつぶやきサービスが10億ドルも調達したいと言い出したのは酔狂であった。

投資家たちがFacebook株を塩漬けしている状況で、赤字のTwitterなんぞに出資することは考えられない。。と思われた。

しかし蓋を開ければとんでもない結果になった。

 

驚きの上場初日

上場初日の株価は26ドルから50ドルにまで急騰。TwitterIPOにより18億ドルを調達したのだった。

Facebookの初値11%上昇に比べると、異様な人気だったと言える。

株価売上倍率PSRは22倍となり、この指標でもFacebookの11倍を大きく上回るものだった。

ネット株史上、最大の成功だと賞賛された。このIPOの指揮を執ったのが、ノト氏だった。

2013年、ブルームバーグのニュースでノト氏が取り上げられる 

 

Twitterをビジネスモードへ

では、ノト氏はどのようにIPOを成功に導いたのだろうか?

主幹事であるゴールドマンの仕事は、上場までのすべてをサポートすることだ。ノト氏はまず、IPO申請書類に並々ならぬ力を入れた。

 

IPO申請書類 Form S-1がヤバイ

先に上場したLinkedinのレポートは130ページ、Facebookは150ページ。それに対してTwitterは160ページ。多角企業なら200ページを超えることもあるが、つぶやくだけのサービスをここまで分析したことには驚いた。

 

さらにレポートでは、赤字経営であることを明記しつつ、未来に投資するイノベーティブな姿勢を示した。

Twitter自身、財政難であることを理解しつつ、あえて研究開発費にコストを割いているということを投資家に伝えたのだ。

累積赤字を批判する投資家も少なくなかったが、多くの人はこのレポートに納得したのだった。

 

夢を持たせろ!

2年で10倍も成長したという点も注目された。経営陣自ら、メディアに対して積極的にビジネスを推進する姿勢を見せ、人々はTwitterに夢を抱くようになった

f:id:BestRgrds:20160607205023p:plain

IPO申請書類 Form S-1 より

このように、会社を上手にアピールし、誰もが納得する戦略を描く―これがノト氏の力だ。

IPO後もTwitterの株価は高値をキープした。かくして、最高の成功案件として称賛を得たのだった。

しかし誰もが知るように現在は長い低迷を続けている。

 

Twitter CFOとしての現在

2014年5月、ノト氏はTwitter CFOに就任する。CEOが辞任、株価低迷、身売りまで噂されていた時期だった。

彼はまず財務体質の改善に取り組んだ。

 

プロのリストラクチャリング

バランスシートを読み、コストアロケーションを最適化する。つまり、ムダな費用をカットし、必要なところに当てる。これがCFOの仕事だ。

日本でも、ジャック・ドーシーの復活やエンジニアの突然の解雇がニュースとなった。

 

大規模な解雇を行う一方、東京オフィスが拡充され開発拠点も設けられたことは記憶に新しい。

nlab.itmedia.co.jp

個人的には、ノト氏が日本市場を見逃さなかった点には驚いた。

それまでのTwitterは数人の日本人エンジニアがいるだけで、日本市場はデジタルガレージに任せきりだった。Twitterギークばかりの普通のテックベンチャーだったのだ。

しかし、ノト氏がジョインしてからガラリと変わったのがわかる。

 

今のところ、財務面では回復傾向にある。利益率は上向かないが、売上は伸び続けている。まずはシェアを握る狙いだろう。

 

ノト氏の洞察と展望がヤバイ

財務改善が進む一方、アクティブユーザが伸び悩んでおり、不安の声が広がった。

これに対するノト氏の見解は、Twitterはもとよりソーシャルメディア全体の核心を突くものだった。

「ユーザーがTwitterを使わないのは、使う必要がないからだ」

衝撃的な発言だった。利用者を増やすには、機能を増やすとかデザインを変えればいい…と考えられていたからだ。それをバッサリ。彼はTwitterを使う「必然性」を作るべきだと考えている。

 

さらにノト氏は今年の4月にこんな発言もしている。

「モバイル端末以外の分野も視野に入れている」

「最終的にはワンストップの広告会社を目指す」

 

彼は、Twitterを"スマホでつぶやくサービス"と考えていない。イメージをぶち壊して、変革を起こそうとしているのだ。

 

また、こんな発言もしている。

Twitterには潤沢なキャッシュがある。今、ゲームを変えるような機会を探しているところなんだ」

Twitterはいまだに赤字…赤字の会社が他社を買うと言い出したのだ。

そして先日、米Yahooを買収するという噂が流れた。真相は不明だが、明らかにノト氏がなんらかの手を打とうとしている。

nypost.com

 

このように、CFOとは経理などとはまったくスケールの違う目線で仕事をしているのだ。地味なイメージは払拭できただろうか?

アンソニー・ノトの今後の動きに注目しよう。

 

次回は日本でも大きな仕事をしたことで知られるコムキャストの元CFO、アジェラキス氏を紹介する。

それでは。

 

 

元軍人のTwitter CFO、アンソニー・ノトとは何者なのか

CFOとは何か

成功する企業の裏には必ずCFOがいる。

例えば、GoogleAppleは、節税やM&Aをはじめ高度なファイナンススキームを用いて高い利益を得ている。

商品が良ければ儲かる、という時代ではないのだ。営業マンやエンジニアも大切だが、私はもっとファイナンスも注目されるべきだと思う。

TwitterCFO、アンソニー・ノト

そこで、このブログでは凄腕のCFOを少しずつ紹介したい。

ということで今回はTwitterCFOアンソニー・ノトを紹介する!同社CFOに就任してまだ2年ほどだが、いま世界で一番注目されているCFOだ。

f:id:BestRgrds:20160606213500j:plain

アンソニー・ノト Anthony Noto

1968年生まれ。ウォートンスクールMBATwitterCFO

 

青年期を指揮官養成所で過ごしたCFO

ノト氏は根っからのファイナンスマニアではなかった。高校卒業後、進学したのは陸軍士官学校 通称"ウェストポイント"だった。日本人にはわかりにくいが、アメリカではエリート中のエリートとされる。

 

リーダー養成所で24時間鍛えあげる

士官学校は、世界を引っ張るリーダーを養成する場所だ。マッカーサーアイゼンハワーもウェストポイントの卒業生。

彼らは大学レベルの勉強しながら、24時間鍛錬に励まなければならない。留年は許されないし、娯楽も禁止。

f:id:BestRgrds:20160606202156j:plain

技術やスポーツも完璧にこなす

彼はウェストポイントでエンジニアリングを専攻し、第24歩兵師団にて通信・インターネット関連のミッションに従事していた。

さらにアメフトチームではラインバッカー(ディフェンス)としてスター選手になる。

もう意味不明の超人である。

この時点でCFOのイメージとは大きくかけ離れている。だが、すべての点と点はいずれ線になるのだった。

 

軍の戦略とビジネスの戦略をミックス

ウェストポイント卒業後、ノト氏は世界最大級の食品会社クラフトフーズ(現モンデリーズ)に入社。通信系を強みにマーケティングなどの仕事をし、ブランドマネージャーとなる。

ビジネスにのめり込む

ビジネスへの関心を深めたノト氏は、会社から車で1時間ほどのところにあるシカゴ大学ビジネススクールに通っていた。

その後、ビジネスにのめり込んだ彼は、ペンシルバニア大学ウォートンスクールに入学し、MBAを取得。

結果的に彼はスーパーマンすぎて、ぐちゃぐちゃなキャリアを築いていたのだった。

 

 

そしてゴールドマンサックスへ入社後、ファイナンスの世界に触れて彼の能力が目覚める。

さらなる成長を求め金融の世界へ

ゴールドマンでは、インターネットやメディア・通信業界を専門とした。彼はどんな金融マンよりも通信技術に詳しい。すぐにトップアナリストになり、経営戦略や財務アドバイスを行う。

ウェストポイントで鍛えウォートンで昇華した彼の能力は誰も止められなかった。

 

驚異的な出世スピード

1999年に入社して2003年にディレクター、2004年にはパートナーに昇格というスピード出世。このとき、まだ30代半ばである。

 

ウォール街の人間はシリコンバレーには疎いものだが、ノト氏のレポートは常に鋭いものだった。財務諸表だけでなく、技術を理解し、市場を読む能力に長けていたのだ。

それでも更なる挑戦を求め、彼はゴールドマンを卒業する。

全米を熱狂させるスポーツエンターテイメントの世界へ

f:id:BestRgrds:20160606202821j:plain

彼は2008年に世界最大のスポーツリーグ、NFLナショナルフットボールリーグ)のCFOとして招かれる。NFLといえばスーパーボウルで知られるように、全米を熱狂させるリーグだ。

ウェストポイント時代はフットボールの名選手だったし、彼以上の適任はいないだろう。

NFLでは、ファイナンス、戦略、レギュラトリーリポートを担当。

ビジネスとしてのスポーツ

精神論オラオラなスポーツ協会員とは違い、彼はスポーツをビジネスとして成功させた。チケットは常に売り切れ、テレビも高視聴率。

最近は日本でもオンラインチケットが普及してきたが、NFLはその先駆者として知られる。なんと、オンラインチケットは転売の仕組みまでオフィシャルにサポートされているのだ。

徹底的に利益を逃さないように作られたビジネスモデル。

彼は財務をベースにマーケティング戦略なども考え、新しいスポーツビジネスのモデルを作った。まさに参謀だ。

GSメディア専門部隊のトップに就任

そしてノト氏は再びゴールドマンにメディア・テレコムグループのヘッドとして招かれる。2013年にTwitterIPO案件を成功させたことから同社に引き抜かれ、2014年にCFO就任。

前半はここまで。次回はノト氏の辣腕ぶりがわかるTwitterIPOを振り返ってみよう!

 

 

 

レガシーとの戦い〜投資銀行フィンテック部の現場から

あなたが思ってるほど、フィンテックは楽しいものじゃない。現場はもっと混沌としている。

ペンタゴンにはフロッピーがまだ残ってるって?悪いがここじゃよくある話だ。

フィンテックってのはレガシーを駆逐するか、俺らが食われるかっていうジハードなんだ…!

今回は、今までに僕が経験してきた「レガシーとの戦い」をご紹介したい。 

プリンタ付き電卓とエクセルの戦い

彼女は執拗にプリンタ付き電卓にこだわり続けた。

「あたしにはね、こっちの方がいいのよ」そういって彼女はバチバチと電卓を弾いた。彼女の電卓はレシートのような紙がはみ出ていて、計算結果を印字することができる優れものだ。70年代に登場してから、いまだに販売されている。

▼こうゆうやつ

キヤノン プリンタ電卓 P1-DH V 1905B008

キヤノン プリンタ電卓 P1-DH V 1905B008

 

 

彼女はエクセルの計算結果に懐疑的で、よく電卓で答え合わせをしている。

「エクセルは完璧ではないから、気を付けた方がいい」と僕にアドバイスをくれた。

ありがとう。その通りだ。Sheft+F9を知らない人もいるからな。

このババアの定年まであと数年だ。

 

ロータスノーツとアウトルックの戦い

「機能が多すぎて意味がわからない」部長はいつも僕にアウトルックの操作を聞いてくる。「間違えて変なボタンを押しそうで怖いんだよ」と語る部長はロータス世代の人間だ。

かつて、ロータスノーツというIBMアプリケーションがあったのだ。特に官公庁や金融機関で多く採用され、都市銀行はすべてロータスユーザーだった。

今ではほとんどアウトルック・Gメールに置き換えられたが、いまだにIロータスはBMに数億ドルの売上をもたらしている。

当社では最近になってロータスは駆逐されたが、アプリケーション自体はまだ残っている。

「あれっ、ロータスで会議室の予約したはずなのに」部長はいまだにロータスの呪縛から逃れられない。

「部長、それアウトルックでできますよ」

ロータスでできるのになぜわざわざ別のソフトに変えるんだ!」

なぜか怒られた。

チャット機能やクラウドストレージ/ノートを連携させるなんて夢のまた夢だ。

 

メガバンクの残高照会の戦い

企業であれば、銀行の残高は毎日チェックするだろう。この度、そうした単純労働はすべてベトナムに委託することになった。我々はフィンテックで忙しいのだから。

メガバンのシステムは英語に対応していないが、運よく日本語ができるスタッフをハイアーすることができたしスムーズに業務移管ができると思われた。これでフィンテックに集中できるぞい。

 

しかし、このささやかなリソース確保も空しく、並行稼働初日にトラブル発生。

「ハロー、ミスターベスト」ベトナムからのコールだ。「ファイルが壊れている」

運用部隊総出でデータの確認をした。問題ないぞ。ベトナムは正常にデータを取得できているはずだ。何があったんだ??

原因は憎き半角カナであった。銀行からのダウンロードデータは半角カナなのだ。

当社のプレミアもののMS-DOSが受信した半角カナは、ベトナムの最新中華コンピュータでは再生できなかったのである。Windowsェ…文字コードェ…メガバンェ!!!!

 

霞が関との戦い

フィンテックを推進するにあたって欠かせないのが政府との連携だ。フィンテックについては、政府も他国に負けまいと息巻いている。ありがたいことだ。

先日は○○庁から電話があった。規制緩和に伴い、提出書類のファイル形式がいろいろ変るらしい。良い取り組みだと思う。紙は撲滅して、IT化しましょう。

 

それでは、メアドいただいていいですか。メールをお送りしてエビデンスとしたいのですが

「うちはメールできないんですよぉ」

はて。

「セキュリティの関係で。外部と連絡できる端末は一応あるんですけど、本当に緊急用なので」

メアドゲットならず。遠回しにお断りされる一番キツイパターンだ。ぐぬぬ

 

はたしてフィンテックの時代はやってくるのだろうか。

今日も戦いは続く。

 

 

 

フィンテック関係者がガッカリした伊勢志摩サミット

今日の日経平均はガガガっと下げてのスタート!G7サミットに対する失望売りと見られている…らしい。

金融機関でフィンテックをやってる者としてはとっても残念な出来事でした。

なぜなら、これが日本におけるフィンテックの遅れをはっきりと宣言するものだったからです。ゴゴゴ…

f:id:BestRgrds:20160523205334p:plain

フィンテックってサミットに関係あるの?

今回のG7サミットでは、21,22日に財務大臣中央銀行総裁会議がありました。実はここで、開催国日本に対してある期待がされていたんです。

それが銀行法改正」

フィンテック推進のために銀行法を改正しよう!

この改正案は、はっきり言ってしまうと金融機関がIT企業を買収できるようになるようにするというもの。

これが実現できれば、フィンテックベンチャーがどんどん生まれるし、銀行ももっと早く新しい技術を取り入れて進化していけるようになるはず。

フィンテック先進国への第一歩!

だから多くの金融関係者、フィンテック関係者は先週末の会議に対してとても期待していたのです。

 

バズワード止まりのフィンテック

現状のフィンテック(と呼ばれているもの)は、単なる家計簿アプリです。ビットコインもまだまだ中央銀行には敵いません。

個人レベルだし小額すぎて社会へのインパクトゼロ。。ただのバズワードと思われても仕方ありません。

 

そもそも今のままフィンテックを推し進めることがオカシイと思います。現状金融システムの「決済」が圧倒的に遅いからです。ここを改善しない限り、どんなに金融まわりのテクノロジーが発達しても有効ではないのです。

ちょっと話が逸れますが、そのことにも触れたいと思います。

 

 

今の金融システムでは3日もかかる決済

金融業界は常に最新技術に投資しているので、トレーダーは高速で株の売買が可能ですし、常にマーケットはモニタリングされています。

ですが、決済は相変わらず日銀に握られ、「一旦締めてから差額を交換する」というやりかたをとっているんですね。

そのため、どうしても1営業日必要。さらに海外取引や為替に関わるものはサンチェイス的に世界中に影響していくので、プラス1営業日

 

今どき、データのやりとりに最低2日もかかっている!

これがフィンテックボトルネックになっている。もしも決済が高速で実現できれば、エンタープライズ領域のファイナンスが活発になるでしょう。

 

金融機関の人間としては、まずは決済を刷新すべきだと思います。仮想通貨はその次じゃないでしょうか。

決済から金融を考える KINZAIバリュー叢書

決済から金融を考える KINZAIバリュー叢書

 

 

市場は未来を予言する

最後に、なぜ今日の日経平均にガッカリしたかという話。

市場は未来を予言すると言われているんです。

 

第二次世界大戦での日本国債価格の額面割れなどは日本の敗戦を見通していたと言われていますし、金融機関は政府よりも早く情報を仕入れていたと言われるほどです。

 

だから、今回の日経平均ははっきりとG7に対する失望を表していたんじゃないかと思うのです。日本のフィンテック後進国への予言にならないことを祈るばかりです。。

 

中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来 (新潮選書)

中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来 (新潮選書)